通知弁護士と通知税理士

 弁護士は、弁護士法3条2項を根拠に税理士の仕事をすることができます。

 他方、税理士法51条の規定を根拠に、弁護士は国税局長に通知をすることにより、税理士業務を行うことができます。

 この通知を行った弁護士のことをなんと呼ぶのが正しいのか、少し気になりましたので、調べてみました。

 通知を行った弁護士なので通知弁護士と呼ぶべきでしょうか、通知を行うことにより税理士の業務を行うことができるので通知税理士と呼ぶべきでしょうか。

 なお、税理士法には、呼び方について定められていません。

 ネットで調べると、士業のブログで、通知弁護士と記載されていることもあれば、通知税理士と記載されていることもありました。

ただ、信頼性が高いHPを調べてみると国税庁のHP(https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/qa/06.htm)では通知弁護士と記載があり、日本弁護士連合会のHP(https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/statistics/2021/4-6.pdf)でも通知弁護士と記載がありました。

 他方、通知税理士という呼び方は何の仕事をするのか一見してわかりやすく、ネットで検索すると出てくる言葉なのですが、個人ブログ以外に根拠と呼べそうなものがありませんでした。

 以上のことから、通知弁護士というのが正しいと考えています。

役員退職金と消費税の注意点

 最近、ある名古屋の会社の社長から会社をやめようと思う、その際の税金関係についていろいろ教えてほしいと相談を受けました。

 財産が大きく動く際には常に、税金の問題がついてまわります。

 会社をやめる際には、退職金の問題、また、会社をやめるといっても株式を持っている場合にどうやめるのかという問題、様々な問題が出てきて、選択を一つ誤るだけで税金が大きく変わります。

 また、会社の話であるのに、法人税はもちろん、所得税の話も出てきますし、消費税の話も絡んできますし、社長個人にお金が入ってくると今度は、その財産をどう残していくかということで、贈与税や相続税の問題が出ていきます。

 まず、質問を受けたのは、会社をやめるものの、会社所有のマンションがあり、今後はそこに住みたいので、マンションを会社から個人に移す必要がありその際の税金の注意点でした。

 マンションの所有権を会社から個人に移す場合には、個人で買い取る、退職金としてもらうという方法が考えられます。

 ちなみに、その社長は個人としては預金をあまり持っていなかったので、マンションを買い取る場合には、退職金を受け取り、そのお金で買い取ることを検討していました。

 ここで消費税の問題が出てきます。

 ただ、もちろん、役員退職金を現金で給付する場合は、当然消費税は関係ありません。

 しかし、その現金で受けとった退職金でマンションを買い取れば売買、又は受け取るべき退職金の代わりにマンションを渡すということであれば代物弁済となっています。

 なお、消費税の対象となるのは①国内取引であること、②事業者が事業として行うものであること、③対価を得て行うものであること(寄付金、補助金等は課税対象となりません。)④資産の譲渡・貸付、役務の提供であること、の要件を満たした取引です。

 売買や代物弁済の場合は、会社(会社として行う行為はすべて事業となります。)は、対価を得て、マンション(資産))の譲渡を行ったことになり、マンションのうち建物部分が課税売上となり、消費税を計算して、決算期に消費税を納付する必要があります。

 他方、退職金そのものとして、マンションの現物給付を受ける場合には、対価を得て行われる資産の譲渡には当たらないと考えられ、消費税の課税対象となりません。

 そのため、会社はマンションの建物部分に対する消費税を納める必要はありません。

 ただ、マンションを社長が受け取るという結果は変わらないのに大きく税金関係がかわるというのは不思議です。また、税務署に何か言われたときに説明をすればいいというお話ではありません。

 しっかりと、マンションを社長が受け取るということについて法律的な意味合いを意識しつつ書類を作成して、しかるべき手続きを取る必要があります。

 具体的には、①株主総会において、役員退職の決議を行い、マンションを現物で給付する旨の決議が行われたことについて、議事録を作成します。

 さらに、②法務局における不動産の所有権移転登記にあたり、原因を退職慰労金の給付、とします。

 そうすれば、消費税の問題を避けることができます。

 特に何も考えずに、例えば、税金関係のことをあまり知らない司法書士に登記だけ頼むと、マンションを取得するという結果は同じであろうということで、登記原因を代物弁済とされてしまうことがありません。

 その際には、法務局にしっかり、マンションの移転の理由が代物弁済であると記載され。税務署も必ず登記を確認するので、あとから、そんなつもりはなかった(退職金の現物給付としてマンションの所有権を移した)といっても認められる可能性は低いです。

 今後は、団塊の世代の年齢層からすると役員の退職に伴う退職金の支給が増えてくることが予想されます。

 役員退職金は大きな金額になることが多く、それに見合うマンションの価値も高くなりがちで、少し税金の処理を間違うだけで大きく払うべき税金が変わってきます。

 ご心配な方は税理士に相談することをおすすめします。 

信託財産と小規模宅地の特例

最近、名古屋在住の方から、信託契約をしたという方から、小規模宅地の特例の適用は問題なくできるのか、という質問をされました。

ネットで検索すると特例の適用はできそうですが、条文上どのように記載されているか、委託者死亡によって信託財産の帰属権利者へ土地が移転した際に小規模宅地の特例の適用の可能性があるのか、という疑問について、少し深く考えてみようと思います。

そもそも、なぜ上記の疑問が出るかといいますと、小規模宅地の特例は、原則として、相続した財産についてのみ適用があるからです。

信託財産が、委託者死亡によって帰属権利者に不動産の所有権が移転することは、相続には当たりません。信託契約に基づいて、あるいは、終了によって所有権が移転しているといえます。

そのため、上記権利移転については相続税が課税されること、小規模宅地の適用があるという規定が必要になります。

小規模宅地等の特例に関する規定(租税特別措置法69条の4)は、同法施行令第40条の2第27項により、相続税法第九条の二第六項の規定を準用されます。

相続税法第九条の二第六項では、「第一項から第三項までの規定により」信託財産を取得したものは、贈与又は遺贈とみなされ、相続税法の適用がある旨規定があります。

相続税法第九条の二第一項は、他益信託の設定についての規定です。

相続税法第九条の二第二項は、受益者の変更についての規定です。

相続税法第九条の二第三項は、受益者が一部不存在となった場合の規定です。

ちなみに、相続税法第九条の二第四項は、信託が終了した場合における残余財産を受け取る人がいる場合の規定です。

相続税法第九条の二第六項は、あえて、四項を除外しているように見えます。

つまり、委託者死亡に伴い、信託が終了した場合における残余財産に特例の適用がないようにも条文上読めてしまいます。

 ただ、ネットで検索すると上記の条文の仕組みに付いての説明はなく、単に信託財産にも特例の適用できるとしか書かれていないサイトが多いです。

 おそらくは、租税特別措置法69の4-2の通達に信託に関する権利も特例の適用を受けることができると記載されているように、その当然の前提として信託財産も特例の適用を受けることができるができるという解釈なのだと考えます。

 ただ、最近までこの疑問に真正面から回答している書籍は見つけられませんでした。

 ところが、令和7年5月に出版された相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説(令和7年版)の租税特別措置法69の4-2の該当箇所については、旧版には記載されていなかった「※なお、相続税法第9条の2第4項の残余財産には、特例対象宅地等がふくまれえることに留意する。」という記載が追加されていました。

 税法に明確に記載されているわけではないので、少し腑に落ちないところはありますが、信託財産も特例の適用を受けることができることは間違いないようです。

税務署と保険会社

まだ、5月ですが、最近の名古屋は真夏のように暑くなってきました。

本日は、税務署がどのように相続財産を把握して、財産の計上漏れを指摘するのか、ということについて、説明をしていきます。

 例えば、契約者が被相続人で、被保険者が相続人の生命保険がある場合は、この保険契約に関する権利が相続財産に当たります。しかし、被相続人が死亡したことにより保険金が発生するわけではなく、契約者の名義変更が行われるだけなので、どうやってこの財産を税務署が見つけるのか、と疑問に思われる方もいらっしゃいます。

 この疑問に対する回答は簡単です。

 保険会社が名義変更をしたことについて、税務署に報告をするからです。

 相続税法59条2項では、そこのことについて規定がされています。

 知らない方もいらっしゃいますが、このような法律がある以上、保険について隠すことは不可能です。

実際には、隠すつもりはなく、単に契約者の名義変更しただけでお金をもらったわけではないので、相続財産であると思っていなかったというパターンが多いと思われます。

 ただ、知らなかったで済まされないのが税法の世界です。

 税務調査において、税務署から指摘を受けて修正申告をすれば、本来払うべき税金に加え、過少申告加算税や延滞税が発生する可能性が高いです。

 何に相続税がかかってくるのかよくわからない、不安だという方は税理士に相談することをおすすめします。

(調書の提出)

第五十九条 次の各号に掲げる者でこの法律の施行地に営業所、事務所その他これらに準ずるもの(以下この項及び次項において「営業所等」という。)を有するものは、その月中に支払つた生命保険契約の保険金若しくは損害保険契約の保険金のうち政令で定めるもの又は支給した退職手当金等(第三条第一項第二号に掲げる給与をいう。以下この項において同じ。)について、翌月十五日までに、財務省令で定めるところにより作成した当該各号に定める調書を当該調書を作成した営業所等の所在地の所轄税務署長に提出しなければならない。ただし、保険金額又は退職手当金等の金額が財務省令で定める額以下である場合は、この限りでない。

一 保険会社等 支払つた保険金(退職手当金等に該当するものを除く。)に関する受取人別の調書

二 退職手当金等を支給した者 支給した退職手当金等に関する受給者別の調書

2 保険会社等でこの法律の施行地に営業所等を有するものは、生命保険契約又は損害保険契約の契約者が死亡したことに伴いこれらの契約の契約者の変更の手続を行つた場合には、当該変更の効力が生じた日の属する年の翌年一月三十一日までに、財務省令で定めるところにより作成した調書を当該調書を作成した営業所等の所在地の所轄税務署長に提出しなければならない。ただし、当該変更の手続を行つた生命保険契約又は損害保険契約が、解約返戻金に相当する金額が一定金額以下のものである場合その他の財務省令で定めるものである場合は、この限りでない。

高度障害保険金と医療費控除

名古屋も4月に入り、桜も見頃となってきました。

 

 確定申告の時期は終わりましたが、確定申告時期に相談のあった事項を備忘録も兼ねて書いていこうと思います。

 この度は、前回に続き、高度障害保険金関連のお話です。

ところで、毎年、支払った医療費が10万円を超えるので、確定申告を行い医療費控除を受けている方も多いのではないでしょうか。

 基本的に多額の医療費を支払えば、控除を受けることができますが、受け取った保険金がある場合には、所得税の減税対象となる医療費から差し引く必要があります。

 実際に病院に支払った医療費よりも受け取った保険金の方が多ければ、医療費控除を受けることはできません。

 では、高度障害保険金を受け取った場合には、どうなるのでしょうか。

もし、通常金額の大きい高度障害保険金の金額分だけ、支払った医療費から差し引かれると、医療費控除は適用を受けるのが難しくなります。

この点について、所得税基本通達に規定があり、医療費控除に影響は与えないことになっています。

 高度障害保険金を受け取った方も安心して医療費控除の適用を受けていただいて大丈夫です。

(医療費をほてんする保険金等に当たらないもの)

73-9 次に掲げるようなものは、医療費をほてんする保険金等に当たらないことに留意する。(昭57直所3-8、平7課所4-1、課資3-1、平15課個2-23、課資3-7、課法8-11、課審4-37、平23課個2-33、課法9-9、課審4-46改正)

(1) 死亡したこと、重度障害の状態となったこと、療養のため労務に服することができなくなったことなどに基因して支払を受ける保険金、損害賠償金等

(2) 社会保険又は共済に関する法律の規定により支給を受ける給付金のうち、健康保険法第99条第1項《傷病手当金》又は第102条《出産手当金》の規定により支給を受ける傷病手当金又は出産手当金その他これらに類するもの

(3) 使用者その他の者から支払を受ける見舞金等(73-8の(4)に該当するものを除く。)

高度障害保険金と非課税所得

 今年の確定申告では、たまたまですが、名古屋にお住いの方から高度障害保険金の税金関係について質問を受けることが多かったです。

 まず、高度障害保険金とは、被保険者が病気や怪我により保険の契約上の定められたかなり障害が重い状態(例えば、両眼の視力を全く永久に失ったり、言語またはそしゃくの機能を全く永久に失った場合など)になると、死亡保険金と同額を受け取ることのできる保険金をいいます。

 つまり、死亡保険金と同様に多額の保険金が入ってきますので、保険料よりも高い保険金であれば所得税が発生するのか、心配になります。

 まず、出発点となるのが、所得税法施行令第30条第1号です。

 この規定の関係する箇所を簡単に抜粋すると、「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」は非課税の所得となります。

 そうすると次に考える必要のあるのは、高度障害保険金が「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」に当たるかどうかが重要となります。

 この点についても、所得税基本通達9-21に規定があり、高度障害保険金は、所得税法施行令第30条第1号に規定する「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」に該当するものとして取り扱えることになっています。

このような根拠のもと、高度障害保険金は非課税の所得となります。

(非課税とされる保険金、損害賠償金等)

第三十条 法第九条第一項第十八号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は、次に掲げるものその他これらに類するもの(これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補塡するための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分)とする。

一 損害保険契約(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第四項(定義)に規定する損害保険会社若しくは同条第九項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約又は同条第十八項に規定する少額短期保険業者(以下この号において「少額短期保険業者」という。)の締結したこれに類する保険契約をいう。以下この条において同じ。)に基づく保険金、生命保険契約(同法第二条第三項に規定する生命保険会社若しくは同条第八項に規定する外国生命保険会社等の締結した保険契約又は少額短期保険業者の締結したこれに類する保険契約をいう。以下この号において同じ。)又は旧簡易生命保険契約(郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成十七年法律第百二号)第二条(法律の廃止)の規定による廃止前の簡易生命保険法(昭和二十四年法律第六十八号)第三条(政府保証)に規定する簡易生命保険契約をいう。)に基づく給付金及び損害保険契約又は生命保険契約に類する共済に係る契約に基づく共済金で、身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(その損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかつたことによる給与又は収益の補償として受けるものを含む。)

(高度障害保険金等)

9-21 疾病により重度障害の状態になったことなどにより、生命保険契約又は損害保険契約に基づき支払を受けるいわゆる高度障害保険金、高度障害給付金、入院費給付金等(一時金として受け取るもののほか、年金として受け取るものを含む。)は、令第30条第1号に掲げる「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」に該当するものとする。

相続時精算課税制度と養子縁組の解消

相続時精算課税制度とは、60歳以上の直系尊属(父母、祖父母など)から、18歳以上の直系卑属(子、孫など)に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。

この制度を選択する場合には、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に一定の書類(戸籍等)を添付した相続時精算課税選択届出書を提出する必要があります。

この制度を受けることにより、2500万円まで贈与が非課税となり、相続の際に相続財産に加算して相続税を計算し、相続税が発生する場合には納税が必要となります。

贈与税を納めたくないが、財産の前渡しをしたいときに重宝される制度と言えます。

そして、養子も法律上直系卑属であり、養親から贈与があれば、基本的に相続時精算課税制度の適用を受けることができます。

ただし、養子縁組は、いつでも双方の合意があれば、養子養親関係を解消できます。

そのため、養子縁組の状態が、贈与の時期にあればいいのか、申告の時期にあればいいのか、という疑問が出てきます。

また、養子縁組解消後の贈与は相続時精算課税制度の適用を受けるのか、という疑問も出てきます。

結論としては、贈与の時期に養子縁組の関係があれば、相続時精算課税制度の適用を受けることができ、また、養子縁組解消後の贈与も相続時精算課税制度の適用を受けることができます。

また、贈与時点の状況が重要となるため、提出する戸籍は、贈与後に作成された戸籍を提出する必要があります。

贈与関係は、いろいろな制度の中から適切なものを状況によって取捨選択する必要があるので、税理士に相談することをおすすめします。

孫と医療保険のプレゼントと贈与税及び相続税 5

1月に入り名古屋も寒さが厳しくなってきました。

前回の続きで、医療保険のプレゼントについて、説明をしていきます。

医療保険のプレゼントとネットで調べると、保険契約者を孫、被保険者を孫とする形で保険に入り、祖父母がその保険金(全期前納払い)を贈与をするということを説明しているページもあります。

上記の医療保険の贈与もありえますが、全期前納の保険金が110万円を越えれば贈与税の申告を行う必要があります。

また、前月に説明したように、祖父母が契約者、孫を被保険者とし、後に、契約者を変更するほうが、暦年贈与にはあたらず、効率よく祖父母の財産を減らし、次世代に財産を引き継げます。

なお、医療保険のデメリットとして、保険金受取事由がなければ、なんの保険金も受け取ることができず、保険料だけをしはらったということになる、ということをあげているページもあります。

しかし、ちゃんと医療保険を選べば、健康祝い金として、保険受取事由が数年間なければ、一定の金額が返ってくるので、たとえ、一生、保険受取事由(例えば入院等)がなくとも、0歳の孫を被保険者にして、その孫が平均寿命まで存命であれば、健康祝い金の総計が支払った保険金相当額より多いような保険もあります。

このように、相談する相手によって、効率の良い生前対策として適切な医療保険の提案を受けることができますし、適切な保険会社の医療保険の提案を受けることができます。

節税対策を本気で考えている方は、節税に詳しく、保険の提案もできるような税理士に相談をすることをおすすめします。

孫と医療保険のプレゼントと贈与税及び相続税 4

12月に入り名古屋もかなり寒くなってきました。

前回は、相続開始後、医療保険を相続した場合の課税関係について説明しました。

この度は、生前に保険契約の名義変更をした場合の課税関係を説明しようと思います。

医療保険の契約者を祖父母から孫に名義変更をすると、契約者孫・被保険者孫、となり、あたかも保険を贈与したように見えます。

また、保険の名義変更の課税関係を考えるとき、評価が問題となります。

保険契約の税金上の評価は、保険を解約したときに解約返戻金がいくら戻ってくるかという点から行います。

医療保険の場合は、大抵掛け捨ての保険が多く、解約返戻金はほぼないことが多いです。

そういった前提から、祖父母から孫に生前に、保険の名義変更が行われると、贈与税がかかるかどうかの判断を行い、年間110万円以下であれば贈与税がかからないと書いてあるネット記事がありますが、間違いです。

保険の名義変更について、相続税法は、保険事故が発生した場合において、保険金受取人が保険料を負担していないときは、保険料の負担者から保険金等を相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなす旨規定しています。

つまり、祖父母がなくなった際に、相続税の検討を行うことになります。 名義変更という、保険料を負担していない保険契約者の地位は課税上は特に財産的に意義のあるものとは考えておらず、契約者が保険料を負担している場合であっても契約者が死亡しない限り課税関係は生じないのです。

孫と医療保険のプレゼントと贈与税及び相続税 3

11月に入り名古屋も少し肌寒くなってきました。

この度は、祖父母が契約者、孫を被保険者として、医療保険を全期前納払いされている前提で、相続の際に誰が医療保険の契約者となるか、ということから説明をしていきます。

まず、医療保険契約に関する権利は相続財産である以上、基本的には、相続人間で分割協議が行われ、相続人の内の一人、被相続人の子ども(孫から見ると親)が契約者になります。

なお、相続人全員が合意すれば、孫が契約者になることができると規定している保険会社が多いようです。

相続人全員が合意した場合に、孫が契約者となる場合、課税関係がどうなるのか検討している文献は少ないのですが、相続人全員が合意したからといって、法律上、遺言がないにも関わらず祖父母から孫に相続財産が直接遺贈されるということは考えにくいです。

相続人(全員又は相続人のうちの一人である孫の親)が一旦相続し、その相続人から孫に贈与されると考えると自然かと思われます。(私見)

そのため、相続税が発生する場合は、保険契約に関する権利を最終的に受け取る孫ではなく、相続人に税金の負担が生じると思われます。

孫と医療保険のプレゼントと贈与税及び相続税 2

10月に入り、名古屋もだいぶ涼しくなってきました。

今回は、医療保険をプレゼントする場合に贈与税や相続税がかかるのか、前回の続きを説明をしていきます。

祖父母が契約者、孫を被保険者として、医療保険を全期前納払いすることによって、医療保険をプレゼントする場合を前提とします。

この医療保険の税法上の財産的価値は、この医療保険を解約する場合に返金される解約返戻金の金額となります。

そして、全期前納払いしている場合、本来の払込期間が経過していない部分については、医療保険を解約すれば返金されます。

そのため、例えば、年間保険料20万円、10年間払込む医療保険については、保険契約後5年目になると、経過していない5年分の保険料100万円が解約返戻金相当額であり、医療保険の財産的価値となります。

なお、10年間経過すると、保険会社によりますが、解約返戻金は0円~数万円となることが多いです。

払込期間中に相続が起きると、解約返戻金相当額が相続財産に含まれ、相続財産全体の金額が基礎控除額を超えると相続税の対象となります。

上記のように年間保険料20万円、払込期間10年間の医療保険で、5年経過後に相続がおきると、100万円の価値のある相続財産となり、相続税の対象となります。

払込期間が終わると、上記のように解約返戻金相当額0円から数万円が相続財産となり、相続税の対象となります。

(続きは次回)

孫と医療保険のプレゼントと贈与税及び相続税 1

9月に入っても、名古屋はまだまだ厳しい暑さが続きます。

本日は、孫に医療保険をプレゼントした場合の課税関係について説明していきたいと思います。

よく生前対策で保険に入ることをおすすめされる方がいますが、それは死亡保険金であることが多いです。

一時払いの終身生命保険は、通常貯蓄性がありますし(解約すれば解約返戻金が一定額返金されるという意味です。)、死亡した際に死亡保険金が法定相続人の人数✕500万円の範囲で非課税となります。

上記の保険と異なり、本日説明するのは、掛け捨ての医療保険となります。(本当に掛け捨ての保険しかないのか、というのは後述します。)

医療保険、特に、契約者・保険料負担者祖父母、被保険者孫、受取人祖父母であることを想定します。

また、保険料の払い方も重要です。

医療保険の場合、保険料を終身で支払う方が多いですが、これは月々の支払いを少なくするためです。

しかし、孫へ医療保険をプレゼントする場合、保険料を終身で支払う場合には、契約者である祖父母が被保険者の孫の代わりに支払えるのは、自分の生存中に限られます。

そのため、医療保険のプレゼントをする場合は一定期間、例えば10年間で払込期間が終わる方法で医療保険の保険料を支払う契約にします。

10年間で終身の保証期間の医療保険の保険料を支払うので、一見短期的には高い保険料に見えますが、平均寿命まで生きることを前提として終身で保険料を支払う場合の合計額よりも割安になることが多いです。

そして、10年間で払込期間が終わるとしても、年払い(年に1回保険料を払い込む方法)で保険料を支払う場合に、契約書の祖父母が亡くなれば、契約を引き継ぐ契約者が残りの保険料を支払う必要が出てきますので、保険料の負担を次世代に残すことになってします。

そのため、医療保険料をプレゼントする場合は、全期前納払い(保険期間中の保険料を一度に払い込む)をすることがおすすめとなります。

まずは、医療保険のプレゼントの考え方、ポイントの説明をしました。 次回に続きます。

空き家特例と床面積

最近、名古屋の相続した実家を売却した方から、空き家特例の適用範囲について、相談を受けました。

 実家の敷地(1筆の土地)に、本宅と離れがある場合、本宅に対応する敷地部分にしか空き家特例の適用ができません。

 国税庁HPでは、床面積に応じて(按分して)特例の適用できる範囲を計算するのだと記載がありました。

 ただ、本宅及び離れが平屋ではない場合、総床面積で按分するのか、建築面積(通常1階部分の床面積)で按分するのか、どちらが正しいのでしょうか。

 その点について、国税庁のHPには記載がありませんでした。

 ある大手税理士事務所のネット記事では、総床面積で按分するのが正しいと明記されていましたが、根拠が記載されていませんでした。

 もう少し調べてみると、令和2年6月19日裁決(https://www.kfs.go.jp/service/JP/119/03/index.html)という裁決例がありました。

 この裁決例では、空き家特例そのものに関する裁決ではなく、居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例の適用に関する裁決で、建築面積で特例の適用の対象面積を決めるべきであるとの判断がされました。

 しかし、複数の建物が同じ敷地にあり特例の適用の対象となる部分を限定しようとしている点、厳密には空き家と居住用財産では意味が異なるものの人の居住用部分を限定しようとしている点では空き家特例と居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例は類似していています。

 そうすると、更に調べることで異なる見解、根拠が出てくる可能性もありますが、空き家特例においても、総床面積ではなく、建築面積で敷地を按分して、特例適用面積を計算するほうが正しいように思われます。

相続税と土地の評価

相続税の計算上、土地の相続税評価額は、1筆単位で評価するのではなく、1画地単位で評価を行います。

利用の単位となっている1区画の土地のことを1画地といい、このように評価単位の考え方は、土地を評価するうえで一番最初に検討が必要で、一見簡単そうに見えますが、実は難しいことも多いです。

例えば、評価単位は、原則として地目ごとに評価します。

宅地の横に山林や畑があれば、原則として地目ごとに評価単位を考えます。

ただし、例外として、市街化調整区域以外の都市計画区域で、市街地農地や市街地山林が宅地の横(地続き)にある場合には、その形状、地積の大小、位置等から考えて、これらを一体として評価することが合理的と認められる場合には、一体として評価することになります。

具体的には、市街地山林や市街地農地が仮に宅地適用を想定した場合に、標準的な家屋を建てるための土地の面積に比べて著しく狭い場合、形状から考えて標準的な家屋を建てるのが難しい場合、位置から考えて単独で評価すると無道路地となり家屋を建てるのが困難となる場合、には地目が異なっていても宅地と山林や農地を一体として評価することがあります。

名古屋に限らず、市街地農地は郊外の土地だと以外と残っています。

評価単位の考え方を間違ってしまうとどの路線に面している土地なのかどうか、地積規模の大きな宅地にあたるか、どうか等大きく評価額が異なる場合もあるので、注意が必要です。

相続税と民法

弁護士は法律のことは何でも知っている、もちろん税法のこともよく知っていると思われるかたもいらっしゃいますが、実際には、相続税法に詳しいと言える税理士はあまり多くありません。

弁護士は民法に詳しくても相続税法に詳しくない場合があるというのは、下記のような相違点があることも原因の一つです。

1 相続放棄について

 民法上、相続放棄をした方は最初から相続人ではないことになり協議に参加することもありません。他方、相続税法上、相続税の計算をする際には、相続放棄をしても法定相続人の数にいれて計算することになります。

2 養子について

 民法上、何人でも養子縁組をすることができます。他方、相続税法上、相続税を計算をする際には、法定相続人の数に入れる養子の人数に制限があります。具体的には、実子がいる場合は一人まで、実子がいない場合は二人まで法定相続人の数を計算にいれることができます。

3 生命保険金、退職金について

 民法上、生命保険金や退職金は、原則として受取人固有の財産となり、分割協議を行うを必要すらありません。他方、相続税法上、相続税の課税対象となります。ただ、生命保険金や退職金は非課税枠があるため相続税法上有利な扱いをうけます。

4 評価時点について

 民法上、遺産分割をする際には遺産分割時の時価で分割方法を決めることになります。他方、相続税法上、相続税の計算は相続開始時店の評価で行うことになります。

相続税と養子縁組2

5月に入り、名古屋も暑い日が多くなってきましたが、たまに夜に冷えることもあるので体調管理が難しい季節です。

相続税対策も兼ねて養子縁組を検討されている方もいらっしゃいますが、未成年を養子にする場合には、メリット、デメリットがあります。

メリットとしては、養子縁組全般に言えることですが、基礎控除額および保険金の非課税枠が、実子がいる場合は1人分まで、実子がいない場合には2人分まで、増えます。

そのため、相続税が確実に減ります。

また、相続税の計算上、相続人が増えることで税率が低くなる可能性もあります。

また、未成年の場合は、未成年控除の適用を受けることができ、未成年者控除を未成年者本人が使い切れない場合には、民法の場の扶養義務のある親等がその未成年者控除の恩恵を受けることができます。

そのため、税金面では、ほぼメリットしかありません。

他方、失敗例としては、養子も相続人のうちの一人であることから生じることが多いです。

過去に相談を受けた事例では、未成年者を養子にしていた方が遺言書を作成していませんでした。

遺言書を作成していない場合には、相続人間でも分割協議が必要になります。

しかし、未成年者は、一人では分割協議に加わることができません。

通常は、未成年者の意思表示は、親が代わりに行うものですが、孫養子の場合は、その孫養子と相続人である親は、被相続人の財産について、片方の取り分が増えればもう片方の取り分が減るという関係にあるので、例外的に親が代わりに意思表示をすることができません。

そのため、裁判所に申し出て、特別代理人という人を用意することが必要であり、手続きが複雑になります。

遺言書があればそういった手続きの複雑さが軽減されますが、相続手続き全体に詳しくないと落とし穴があるのが相続の難しさと言えます。

2世帯住宅と相続税

これから、名古屋で2世帯住宅を建てようと考えている方は、やり方によって、相続税について、大きな節税を行うことができます。

 その節税できる理由、注意点について、大枠をお話できればと思います。

 まず、基本的に、2世帯住宅は、相続税を少なくするという観点からは、親の資金で建てるようにしてください。

 子供を甘やかせてはならない、子供にも一家の主たる自覚を持たせるといった目的から、子供の資金又は子供がローンを組み、2世帯住宅を建てさせるという方もいますが、相続税の観点からはおすすめしません。

 例えば、3000万円で家を建てる計画を建てることを前提とします。

親の財産が現金で1億円、子供が3000万円を持っていた場合、子供が全部家の建築資金を出したとすると、子供の財産はゼロ、親の財産は1億円がそのまま残り相続税がたくさん発生します。

 相続人が子供一人だとすると、相続税は、約1200万円です、

 そのため、子供の総財産は、相続後、8800万円(1億円-1200万円)の現金と家ということになります。

 他方、親が全部家の建築資金を出した場合、子供は3000万円の財産を残したままです。親の財産は7000万円と家となります。

 3000万円で建築した家だとしても、木造であれば、数十年後、相続税評価額は、数百万円程度にまで下がります。

 そのため、親に相続が起きた場合でも、500万円程度の相続税で済みます。

そのため、子供の総財産は、相続後、9500万円(3000万円+7000万円-500万円)の現金と家ということになります。

 他にも、敷地部分について、小規模宅地の特例といった土地の評価額の減少ができるかどうか、住宅資金贈与を使うかどうか、といった点も、相続税に関わってきますので、これから2世帯住宅を建てようと考えている方は、税理士にご相談ください。

配偶者の税額軽減の特例の注意点と修正申告

名古屋も厳しい寒さが少しずつ和らいできました。

確定申告の時期でもありますが、私の場合は、相続税に関する業務のほうが多く、いくつも質問をいただきます。

最近では、配偶者の税額軽減の特例に関す質問がありました。

配偶者の税額軽減の特例は、配偶者であれば1億6000万円まで相続税がかからないという、簡単な特例だと考えられている方も多いです。

ただ、思いもしない落とし穴もあります。

配偶者にあたる方の中には、自分には税金がかからないから相続税の申告を適当にしていても大丈夫だと、安易に考えている方もいらっしゃいます。

多少、相続税申告において、財産の計上が漏れていても税務署に指摘されたら対応すればいいと思っていらっしゃるようです。

 しかし、税務調査に入られ、気付いていたにもかかわらず、めんどくさい場合も含めて、わざと申告していなかった場合には、特例の適用を受けることができません。

 実際、私が申告した案件ではありませんが、名義預金を税務調査で指摘され、特例の適用を受けることができず、配偶者であるにも関わらず相続税を払うことになってしまったという方から相談をうけたことがあります。

なお、わざとではなく、何らかの事情で相続財産の計上が漏れていた場合であれば、税務調査に入られる前に、修正申告をすることで特例の適用を受けることができます。

相続税申告についてご不安な方は、お気軽にご相談ください。

譲渡所得と固定資産税精算金の関係

確定申告の時期になってきたので、名古屋の土地を売却した方から、譲渡所得について、税金の計算について相談を受けることがありました。

譲渡所得の計算のためには、譲渡の際の収入と費用を確認する必要があります。(また、購入価格等の取得費の確認もする必要があります。)

譲渡の際の収入は、単純に売買価格であると考えてしまうかたも多いと思います。

ただ、実は、売買の際に売主が受け取る固定資産税の精算金も譲渡の際の収入となります。

固定資産税の精算金とは、毎年1月1日時点の所有者に1年分の固定資産税の支払い義務があることから、年の途中に所有者が変わるので、固定資産税を買主に負担すべきとして精算金が支払われるお金です。

実質的に、買主の固定資産税を負担してもらうべき金額であり、収入には入らないと思うかもしれません。

しかし、税務署としては、やはり、不動産の1年分の固定資産税の納付義務は売主にあるということは変わらず、買主が固定資産税を負担することなくその不動産を所有する期間があるという状況を調整するために個別具体的に調整が行われるにすぎず、支払を受けた未経過固定資産税に相当する額は、実質的には不動産の譲渡対価の一部と考えるのが妥当だと考えます。

このことは、国税庁のサイトの質疑応答事例集「未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合」にも記載されているので、気になった方は調べてみることをおすすめします、

配偶者の死亡と配偶者の税額軽減の特例の適用

相続税の申告の際に、配偶者の税額軽減の特例を使えるかどうかは、相続税の金額に大きな影響を及ぼします。

 名古屋の方で、実際に相談があったのは、被相続人が亡くなった時点では、相続人が配偶者と子供2人だったのが、相続財産の分割協議を行う前に配偶者が亡くなってしまったという事実関係でした。

 被相続人の相続財産は残された子供2人で分割するしかなく、配偶者の税額軽減の特例は使う余地がないと私より前に相談した税理士に言われたとのことでした。

 しかし、これは間違った説明です。

 たしかに、配偶者が分割協議前に亡くなれば、民法上は配偶者は財産を相続することは出来ません(亡くなっている方が財産を相続することは通常できません)ので、配偶者の税額軽減の特例も使えないようにも思えます。

 しかし、この結果は配偶者が分割協議をして財産を取得してから、すぐに亡くなった場合と事実関係はほとんど変わらないにも関わらず、比較するとかなり不公平な結果となります。

 上記のような場合でも、不公平な結果とならないように、子供2人の分割協議において、死亡した配偶者の取得する財産を明確にした場合には、配偶者の税額軽減の特例を使うことができると相続税基本通達19の2-5に記載があります。

「相続税基本通達19の2-5 相続又は遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によって分割される前に、当該相続(以下19の2-5において「第1次相続」という。)に係る被相続人の配偶者が死亡した場合において、第1次相続により取得した財産の全部又は一部が、第1次相続に係る配偶者以外の共同相続人又は包括受遺者及び当該配偶者の死亡に基づく相続に係る共同相続人又は包括受遺者によって分割され、その分割により当該配偶者の取得した財産として確定させたものがあるときは、法第19条の2第2項の規定の適用に当たっては、その財産は分割により当該配偶者が取得したものとして取り扱うことができる。(昭47直資2-130追加、昭50直資2-257、昭57直資2-177、平17課資2-4、令元課資2-10改正)」

 このように、相続税の計算及び特例の可否の検討の際には、民法とは異なる考え方をすることも多いので注意が必要です。